土壌汚染リスクは買収前に見抜ける?M&Aで必須の調査ポイントと対策を徹底解説

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土壌汚染リスクは買収前に見抜ける?M&Aで必須の調査ポイントと対策を徹底解説

企業買収の現場では、財務データや事業計画にばかり注目が集まりがちです。

しかし実際には、見落とされやすい「土地の環境リスク」こそ、M&A後に最も大きな損失を生む可能性があります。土壌汚染は決算書には現れず、現場を見ても気づけない“潜伏リスク”。買収後に汚染が判明すれば、浄化費用は数千万〜数億円、法的な措置命令が出るケースも珍しくありません。

この記事では、M&Aの現場で必須となる土壌汚染調査の読み解き方と、買収前に知っておくべき判断基準を徹底解説します。さらに、調査結果をどう評価すべきかを具体的に解説し、リスクを“事前に見抜くための視点”を提供します。

M&Aで土壌汚染調査が“必須”と言われる理由

企業買収は「見えない情報をどれだけ正確に拾えるか」が成功の鍵です。表に出る数字だけでは企業価値は測れず、特に土地や設備を含む案件では、環境リスクが思いもよらぬ形で現れます。

土壌汚染調査は、買収後の大規模損失を未然に防ぐための“保険”ではなく、企業価値の根幹を構成する要素として扱うべきものです。

法的リスク

土壌汚染対策法に基づき、一定の事業所では指定調査機関による正式調査が義務付けられています。買収後に汚染が見つかれば、改善措置命令が出される場合があり、無視すれば行政処分の可能性もあります。

金銭的リスク

浄化費用は汚染の種類・深度・敷地面積によって大きく変動しますが、一般的に500万円〜1億円以上の幅で発生します。工場跡地などではさらに高額化し、買収価格を上回る損失となるケースも存在します。

企業価値の毀損

環境リスクが開示されなかった場合、買収後の財務に重大な影響を与えるほか、投資家や取引先の信頼を失い、ブランド毀損につながる可能性があります。

M&A前に行うべき土壌汚染調査の基本フロー

M&Aで環境デューデリジェンスを行う際、「どこまで調査すべきか」という判断が必ず発生します。調査しすぎればコストが増え、調査しなければ潜在リスクを見逃す可能性があります。基本的な流れを理解しておくことで、買収する側の立場としても、合理的な判断が可能になります。

土壌汚染調査は、一般的に“段階的”に行われ、リスクが高いと判断された場合に深い調査へ移行します。M&Aの現場では、この段階判断を誤らないことが重要です。

STEP1:土地使用履歴の確認(第一段階調査)

過去に油類、揮発性有機化合物(VOC)、金属類を扱っていた経歴のある土地は、汚染リスクが高いと判断します。

STEP2:現場の目視・聞き取り調査

設備の撤去状況、油の取り扱い、地下タンクの有無などを確認し、“リスクの兆候”を拾い上げます。

STEP3:必要に応じて土壌調査(第二段階調査)

土壌やガスを採取し、法定物質の溶出量・含有量を分析します。削孔深度や採取方法が適切かどうかは精度に大きく影響します。

事例|A社の土壌調査結果から読み解く

ここからは、弊社内で実際に行った土壌調査結果をもとに、M&A実務で“どのポイントに着目すればよいか”を解説します。調査の質や項目の妥当性は、買収判断の重要な根拠となるため、どの調査が何を意味しているのかを丁寧に読み解く必要があります。

土壌汚染調査のご相談は、ぜひ灯油漏れナビを運営する環境開発工業株式会社にお問い合わせください。

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調査の概要:期間・内容・目的をどう見る?

この調査は2025年9月〜10月に1ヶ月をかけて行われ、揮発性有機化合物、金属類、PCB、油分と、主要な汚染物質が網羅されています。

M&Aでは、この「調査項目の網羅性」こそが重要です。扱われた業種(自動車整備・販売)から見ても、油汚染やVOCの調査が含まれている点は適切で、調査方法にも問題はありません。

調査地点:削孔深度や採取状況を見るべき理由

削孔深度は調査の信頼性を左右します。今回の案件では、アスファルト・コンクリートの厚さを含め60〜90cmの深度で各地点から土壌を採取しており、油汚染が生じやすい“表層〜浅層”を十分にカバーしています。

全有害物質で基準値未満:この結果はどう評価する?

第一種〜第三種の特定有害物質すべてで基準値未満、油臭・油膜・油分含有量も確認されず、非常に良好な結果です。M&Aでは、この「基準値未満」がどれほど信頼できるかを判定する必要がありますが、今回のように採取精度が高く、写真帳でも作業の妥当性が確認できる場合、リスク評価としては“非常に低い”と判断できます。

M&Aで土壌調査をどう活かす?買収前のチェックポイント

調査結果が問題なかったとしても、買収実務では“調査結果以外の視点”が重要です。

買収する企業の土地が将来どのように使われるのか、用途変更の予定はあるのか、売主がどこまで情報を持っているのか。こうした周辺情報も合わせて判断することで、初めて安全なM&Aが成立します。

  • 地歴調査で“油・化学物質”使用履歴を確認
  • 調査項目と深度が妥当かを確認
  • 写真帳で作業精度を確認
  • 自主調査で問題なしでも、用途変更時は追加調査が必要

これらのポイントは、忘れないようにしましょう。

土壌汚染リスクを回避するためのM&A実務上の対策

調査結果が良好でも、M&Aでは最終的な「契約」によってリスクをコントロールします。環境リスクは後から表面化することも多いため、法務の保護をどれだけ強められるかがM&A担当者の腕の見せどころです。

SPA(株式譲渡契約)で保証条項を設定

汚染発覚時の負担を売主側に帰属させる条項は必須。

調査は実績ある専門業者に依頼

採取精度、分析方法の信頼性が買収後のリスクを左右します。

調査結果が良好でもモニタリングを継続

特に地下水流動のある地域では継続観測が望ましい。

まとめ:土壌汚染は“見抜ける”。そのためには正しい調査と読み解きが必要

買収前の土壌調査は、M&A後の損失を避けるための“最重大ポイント”です。今回の北海道マツダ士別店跡地のように、丁寧な採取・網羅的な分析・明確な写真記録が揃っている案件なら、汚染リスクは低いと評価できます。

企業買収では、財務諸表の裏側だけでなく、土地の履歴と環境リスクを見抜く目が求められます。正しい調査、正しい評価、そして契約面でのリスクヘッジ。この3つを揃えることで、後悔しないM&Aが実現します。