毎年、本格的な積雪シーズンを迎えると、ニュースでは連日のように除雪中の事故が報じられます。「自分は慣れているから大丈夫」という根拠のない自信が、取り返しのつけない悲劇を招くケースが後を絶ちません。
除雪作業は、単なる労働ではなく、常に死角や足元の不安定さと隣り合わせの「危険な作業」です。特に高齢化が進む地域では、救助の遅れが致命傷になることも少なくありません。
この記事では、除雪中に命を落とさないために知っておくべき事故の背景や、具体的な注意点、そして万が一の際の対応策について詳しく解説します。大切な家族や自分自身の身を守るために、作業前に必ず一読してください。
除雪中の事故が増えている背景とは?
近年、除雪中の事故が社会問題化している背景には、雪国の構造的な変化と気象の変化が複雑に絡み合っています。
高齢者の単独作業が増えている
最も深刻な理由は、除雪の担い手不足と高齢化です。かつては家族や近所同士で助け合っていた屋根の雪下ろしも、現在は一人暮らしの高齢者が単独で行わざるを得ない状況が増えています。万が一、屋根から転落したり雪に埋もれたりしても、周囲に気づかれず救助が遅れてしまうことが、死亡事故に直結する最大の要因となっています。
短時間での豪雪と急激な気温変化
近年の気象状況は、短期間に爆発的な降雪をもたらす「ドカ雪」が増える傾向にあります。急激に積もった雪は、その重みで建物を損壊させる恐れがあるため、住民は強い焦りを感じて無理な作業を強行しがちです。また、気温の上下が激しいと雪が溶けて凍る「アイスバーン」を繰り返し、足場が極端に悪化することも事故を誘発しています。
慣れによる油断
「何十年もこの場所で除雪してきた」というベテランほど、安全装備を軽視する傾向があります。命綱を装着する手間を惜しんだり、一人でこっそり屋根に上がったりといった、日常化してしまった「油断」が、一瞬の隙を突いて大きな事故を引き起こしているのです。
除雪中に多い事故の種類
除雪中の事故は、単に「滑って転ぶ」だけではありません。命を奪う事故にはいくつかの明確なパターンが存在します。
屋根からの転落事故
除雪事故の中で最も多いのが、屋根からの滑落です。軒先に積もった雪は、一見しっかりしているように見えても、自分の体重を支えきれずに崩れ落ちる「雪の踏み抜き」が頻発します。また、新雪の下に隠れた氷の層で足を滑らせるケースも多く、命綱なしでの作業がいかに無謀であるかを物語っています。
落雪による埋没事故
屋根に溜まった雪が突然なだれのように落ちてくる「落雪」も非常に危険です。家の周りで作業中に、屋根からの直撃を受けて身動きが取れなくなるケースや、除雪機で作業中に背後から落ちてきた雪に埋もれて圧死するリスクもあります。雪の重さは想像以上であり、わずか数分で呼吸ができなくなる恐ろしい事故です。
除雪機による巻き込まれ事故
手軽で便利な除雪機ですが、誤った使い方が命取りになります。最も多いのは、排雪口に詰まった雪を取り除こうとして、エンジンをかけたまま手を入れ、回転する刃(オーガ)に巻き込まれる事故です。「ちょっと触るだけだから」という一瞬の慢心が、指や腕、ときには命を奪う結果に繋がります。
心筋梗塞・脳卒中などの突然死
除雪は想像以上に心臓へ負担をかける重労働です。特に早朝の冷え込んだ空気の中で、いきなり重い雪を運ぶ作業を始めると、血圧が急上昇して心筋梗塞や脳出血を引き起こすリスクが高まります。寒さで血管が収縮している状態での無理な作業は、身体の内側から事故を招くことになります。
命を守るために必ず守るべき注意点
事故を防ぐための対策は、決して難しいことではありません。基本を徹底するだけで、救える命があります。
必ず複数人で作業する
除雪作業においては「一人にならない」ことが鉄則です。万が一のときにすぐに119番通報できる見守り役が必要です。どうしても一人で作業しなければならない場合は、家族や近所の人に「これから作業を始める」「何時には戻る」という声掛けを徹底し、携帯電話を常に身につけておきましょう。
命綱・ヘルメットを着用する
屋根に上がる際は、命綱とヘルメット、そして滑りにくい靴の装着が必須です。命綱は、万が一足を滑らせたときに身体を支えてくれる最後の砦です。固定位置がしっかりしているか、ロープに緩みがないかを事前に確認しましょう。また、転落した際に頭部を守るヘルメットは、生存率を劇的に高めます。
除雪機の正しい使い方を徹底する
除雪機の詰まりを取り除く際は、「必ずエンジンを止める」。これに尽きます。エンジンを切るだけでなく、回転が完全に止まったことを確認してから、素手ではなく必ず雪かき棒などの道具を使って作業してください。また、作業中は周囲に子どもやペットが近づかないよう、常に細心の注意を払う必要があります。
無理をしない時間帯と体調管理
朝一番や深夜の作業は、視界が悪く気温も低いため、事故のリスクが跳ね上がります。できるだけ明るい時間帯に、こまめに休憩を取りながら進めましょう。体調が少しでも優れない日は「今日は休む」という決断をすることも、立派な安全管理の一つです。
高齢者・一人暮らし世帯が気をつけるべきポイント
リスクが最も高い高齢者世帯においては、個人の努力だけでなく、周囲のサポートを積極的に受け入れる姿勢が重要です。
事前に家族や知人へ連絡する
作業の開始と終了を必ず誰かに報告するルールを作りましょう。連絡が途絶えたときに「何かあったのでは」と気づいてもらえる体制こそが、最強の安全ネットになります。
地域の除雪支援制度を活用する
多くの自治体では、高齢者世帯を対象とした除雪費用の補助制度や、ボランティアによる除雪支援を行っています。また、民間の除雪サービスを利用することも検討してください。「お金がかかるから」と無理をして命を落とすことほど、悲しいことはありません。
屋根に上がらない選択肢も検討する
最近では、屋根に融雪ネットや電気ヒーターを設置し、雪を下ろさずに溶かす設備も普及しています。こうした設備投資を検討したり、専門業者にすべてを任せたりすることで、「屋根に上がる」という最大の危険行為そのものを排除することができます。
事故が起きてしまった場合の初動対応
もし周囲で事故を目撃したり、自分が巻き込まれたりした場合は、1秒を争う迅速な行動が求められます。
埋没時の救助ポイント
もし誰かが雪に埋もれているのを発見したら、まずは気道を確保するために口元の雪を取り除きます。その後、すぐに119番通報を行い、無理に引っ張り出そうとして負傷を悪化させないよう注意しながら、隊員の到着を待ちます。
心停止が疑われる場合
もし意識がなく、呼吸が止まっているようであれば、直ちに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始します。近くにAEDがある場合は、音声案内に従って使用してください。寒冷地での心停止は、迅速な処置がその後の社会復帰を左右します。
まとめ|「慣れ」が最大の敵。命を最優先に
除雪は毎年の作業だからこそ、どうしても「慣れ」による油断が生まれがちです。しかし、屋根の上や除雪機の周りは、一歩間違えれば死に至る戦場のような場所です。
- 一人で作業しない
- 命綱とヘルメットを必ず着用する
- 除雪機の詰まりはエンジンを止めてから直す
- 体調が悪い日は無理をしない
これらの基本を守るだけで、防げる事故は山ほどあります。「自分だけは大丈夫だろう」という思い込みを捨て、常に最悪の事態を想定して準備することが、命を守る第一歩です。

